同時代に生きてることを繋いでいく、『東京演劇現在形 ー8人の新進作家たちとの対話』(岩城京子 編著)

東京演劇現在形 ― 八人の新進作家たちとの対話 Tokyo Theatre Today ― Conversations with Eight Emerging Theatre Artists

様々な媒体、例えば、音楽、映画、ネット。 現在、それらはデータとして、広く国境を超えて流通させることができる。そのような情報環境は、演劇というメディアにとってなかなか困難な時代にあるのかもしれない。データ化し流通してしまう形では演劇と呼ぶことが難しいからだ。

その結果かどうか分からないが、日本の演劇は閉じやすく内輪的な印象を与えがちだ。もちろん、その内輪の形成はこの環境の中で必然的な役割も担っている。仕事場では満たされないコミュニティへの欲求の受け皿にもなっているだろうし、その場合、むしろ閉じている方が共同体意識は強く醸成されることもある。つまりコミュニティにおいては演劇は「ネタ」として機能していることもあるのだ。

それ故にその共同体の外部へ開こうとする時、社会全体における利益と自己のホメオタシスとしての機能がここで葛藤を起こしかねない。もちろん、その劇団内の共通見解にもよるだろうが、開くことで壊れるものも多いだろう。けれども、それでも開くための回路は必要だと思うのだ。

この本の著者である岩城さんは小劇場の秘境化の理由を3つ上げている。

1、現在の日本における演劇文化全体の下位性
2、経済不況下における観劇券の高コストな博打性
3、日本演劇界の閉鎖性

このうち、特に3つめを最大の要因としている。

本書の目的もこの閉鎖性を打開していくこととしている。その手段として自己完結化したコミュニケーションを自覚的に排していくこと。日本語と英語による2カ国語で書かれているのはそのような意図があるのだ。

何故開く必要があるのか。おそらくマクロ的な視野から眺めるとそれは国際的にも通用し評価される作品を作り上げるためだ。特に文化先進国の多いヨーロッパにおいて、ハイアートと認識されやすい演劇において優れた作品を示すこと。それはスポーツの世界と同じくその国の存在感を示すことになる。ここに日本においてどちらかというとマイナーな演劇に公的資金が投入される根拠があるのだろう。日本においてハイアートがまともに機能していないことは多くの論者が指摘していることだけれども、おそらくは同じ舞台で競うことが重要なのだろう。

もちろんそのことを否定するつもりはまったくない。実際、どのような文脈にしろ、そこに何らかのカタチで開かれアクセス可能な回路が作られたことは確かなことなのだから。文化の流通経路は複数あっていい。

本書は8人の劇作家のインタビューとして構成されている。

対象者は高山明(Port B)、松井周(サンプル)、岡田利規チェルフィッチュ)、岩井秀人(ハイバイ)、前川知大(イキウメ)、三浦大輔ポツドール)、タニノクロウ庭劇団ペニノ)、前田司郎(五反田団)。

演劇に関心がある人たちだけでなく、そこから遠く離れている人にも読んでほしいと思うインタビュー集だ。同時代を生きるアーティストたちがどのように生き考え作品を作っているのか。そのことを自分の中の実感と重ね合わせてみて欲しい。

また、本書は既存の出版社からではなくインディペンデントな形での出版となっている。そこにも著者の思いを感じてみたい。